HOME.CONTACT.PRIVACY POLICY.
K.G-TOKYO.COM Registry Member
入会はこちら LOGIN
What's K.G-TOKYO.COM
WHAT'S K.G-TOKYO.COM

<ペーパーバックス・ファン >

サークル「会報」は2001年から書いています。でも作家や小説の好みは人それぞれ違いますから「会報」も相手ごとに気に入って頂けそうなのをと勝手に選んで送っていました。女性には「日の名残り」や「ケン・フォレット」、競馬ファンはもちろん「ディック・フランシス」、クリスチャンとかだと「ペーパーバックと聖書」「ミゼレーレ」といったあんばいに・・で、結局だれに何を送ったんだか分からなくなってしまいました。このサイトに書き込みができるようになる以前、プリントアウトを郵送していた頃の話ですが。
世話役:安部隆雄(昭和34経卒)


テロ

武装勢力によるアルジェリアの天然ガス・プラント襲撃で、日本人10人を含む人質26人が犠牲になった衝撃は日本中を震撼させ、人々を悲しみと無力感のどん底に突き落としました。2001年9月11日NY世界貿易センター崩落に始まる今世紀のテロは、2011年米特殊部隊がオサマ・ビンラディンを殺害したことで終止符のはずだったのに、現実は一層複雑さを増し中東、アラブ、アフリカを中心に広がる一方です。

テロという言葉は自由、平等、友愛などと共にフランス革命から使われはじめたそうです。Reign of Terror (恐怖政治)はフランス革命でロベスピエール政権が仮借ない処刑を行ったことからですが。(恐怖政治の由来としては古代ギリシャの都市国家アルゴス (Argos) BC370年頃のが有名ですが状況が革命とは違います。)

Liberty, Equality, Fraternity – Terrorist: the word comes from the French Revolution. The Reign of Terror was the name given to Roberspierre’s ferocious rule. Hundreds of thousands of men and women were branded “enemies of the state,” jailed, starved, deported, tortured. Forty thousand were executed. … “Terror is nothing other than justice – prompt, severe, inflexible justice,” proclaimed Robespierre. Those who supported him were called Terroristes. A century later, another revolutionary took a similar stand. “We cannot reject terror,” wrote a man calling himself Lenin; “it is the one form of military action that may be absolutely essential.” His disciples became the new century’s “terrorists.” But with a difference. In France, terror had been an instrument of the state. Now terror was directed against the state.
(Jed Rubenfeld “The Death Instinct” 2010)

フランス革命のテロは国家権力が行使したのに対し、ロシア共産革命以降は国家に向けられる手段になったというルーベンフェルドの記述は明快です。ただ、小説は1920年の米国が舞台なので、アルカイダ、イスラム武装勢力など多国籍集団や部族抗争、Home-grown terrorists などが入り混じる現在のテロ行動まで説明できるわけではありませんが。

オサマ・ビンラディンは反米行動という焦点・標的は明確でした。しかしアルカイダの拡散と各地イスラム武装勢力との連繋により標的や動機は多様化し、また、目に見えない欧米の2世・3世世代によるホームグロウン・テロリストはその目的さえも不確かです。アルジェリアの事件を考えても、武装勢力はカダフィ政権時の傭兵(外人部隊)を含む多国籍集団とされ、しかも直接アルジェリア政府への攻撃が目的ではなかったという・・・アルジェリアのテロ対策は20年来問答無用の武力制圧で一貫した姿勢であり、それを武装勢力が知らないはずはないのに・・ほんとうに全滅覚悟で人質を楯に隣国マリの問題でフランスの譲歩を引き出そうとしたのか? それほど単純なシナリオとは、ちょっと信じかねます。

戦争や冷戦時代は国境や対立軸が明確でしたから危険地帯と安全地帯の区別もしやすく、それなりに対処のしかたもあったのですが、テロの時代はすべてが流動的です。既存の知識 (knowledge)だけでは、ある日突然なにが起こるかわからない不安定な状況には対応しきれません。日々刻々変化する状況を常に押さえておかないと破滅的な悲劇を回避できないという情報 (intelligence) の時代です。

“Knowledge is power” は不変の名言だと思います。しかしテロ戦争の最前線では状況に即した戦略(strategy)と戦術 (tactics) が不可欠ですし、それには正確な情報が欠かせないのですね。
Intelligence is essential. Jan. 26, 2013記

-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------





Jed Rubenfeld “The Death Instinct” (2010)

作者のジェッド・ルーベンフェルド (1959/-)は現役のエール大学法学部教授で合衆国憲法の権威です。プリンストン在学中にフロイトの研究論文を提出、後年処女作 “The Interpretation of Murder” (2006) に結実しました。ルーベンフェルドはプリンストン大学、ハーバード大学院をそれぞれ首席で卒業した秀才で、弁護士、判事の肩書きを持つ一方、ジュリアード演劇学校にも3年間通った異色の学者作家です。そうした経歴が2作目の ”The Death Instinct” (2010) で第一次大戦末期のフランスと1920年ニューヨークで起きた実際のできごとを正確な歴史・学術的記述に豊かなドラマ性を持たせスケールの大きなミステリ小説に仕上げています。

主人公のストレイサム・ヤンガーはハーバード大学医学部教授で外科医という設定です。彼は米国屈指の上流階級出身で背が高くハンサムな容貌の独身貴族ですが、どこかインテリ特有のつきはなしたキザ (snob) さがあります。しかし、それは過去に結婚が破綻した辛く悲しい経験が人を遠ざけようとする行動にでているのでした。一方、相棒のNYPDリトルモアは対照的に風采の上がらぬ目立たない風貌ですが、シャーロック・ホームズを思わせる鋭い観察力とすばらしい切れ味の敏腕刑事です。畑違いで個性的な二人が大陰謀に挑戦するミステリは、ノンフィクションなみの膨大なデータに裏付けられた迫力ある作品です。

冒頭にラジウムの発見者キュリー夫人の助手をつとめていた若く美しいレントゲン技師のコレット・ルソーが、ウォールストリートでリトルモアに初めて会うシーンがでてきますが、ジュリアード出身の作家らしい小気味よいウィットとユーモア豊かな会話が面白いです。

A girl in a slim trench coat was coming down the outdoor spiral staircase of a double-decker bus. The two men met her as she stepped off. Colette Roussaeau kissed Younger once on either cheek and extended a slender arm to Littlemore. She had green eyes, graceful movements, and long dark hair.
“Glad to meet you, Miss,” said the detective, recovering gamely.
She eyed him. “So you’re Jimmy. The best and bravest man Stratham has ever known.”
Littlemore blinked. “He said that?”
“I also told her your jokes aren’t funny,” added Younger.
Colette turned to Younger. “You should have come to the radium clinic. They’ve cured a sarcoma. And a rhinoscleroma. How can a little hospital in America have two whole grams of radium when there isn’t one in all of France?”
“I didn’t know rhinos had an aroma,” said Littlemore. (rhinoscleroma 鼻硬腫)
“Shall we go to lunch?” said Younger.

このあとリトルモアが二人を地下鉄降り口の傍らにある屋台に連れてゆき、「ドッグ (dogs)をおごるよ」と言ったのでフランスから来たばかりのコレットが卒倒しそうに驚き、二人があわててホットドッグの説明をするシーンもほほえましいです。

小説の最後近くにオイスター・バーで有名なニューヨークのグランド・セントラル駅 (Grand Central Terminal) の不思議な話があります。構内地下 (lower level) に降りた一角で、壁に耳をくっつけると遠くにいる人の話が聞こえるというのです。具体的にどの場所かは分りませんが、巻末著者ノートにもそうした場所が実際にあると記されています。建物の構造上起こる現象でしょうけど、それで有名なのがロンドン・セントポール大聖堂の “Whispering Gallery” ですね。英国の高名な建築家クリストファー・レンが設計し1708年に完成したSt. Paul Cathedralは、円形ドーム直下のギャラリーで壁に耳をあてると、一周360度どこでも壁面に向かって囁かれた声が壁をつたって聞こえるので囁きのギャラリー “Whispering Gallery” と呼ばれています。

*******

小説のタイトル “The Death Instinct” は精神分析医フロイトの説ですが、宇宙の法則のように二つの相反する作用が人間や動物にも組み込まれているというものです。生きる本能と同時に死への本能が存在する。ガリレオの二重思想 (belief of duality) や道教の陰陽説とも共通する考えですが、フロイトはChromatolysis(細胞が強制的に死ぬ仕組みでアポトーシスもそのひとつ)を引き合いにコレットに詳しく説明しています。ただ専門的過ぎてアタクシの英語力では正確にお伝えするのはむりです。どうぞ本をお読みください。(原文の一部をご紹介することはできますけど。)

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


“A Discovery of Witches”

デボラ・ハークネスの処女作 “A Discovery of Witches” (2010) が面白いです。以前エリザベス・コストバが書いた「ヒストリアン」(2005) も吸血鬼ドラキュラの血筋が重要なテーマでしたが、デボラ・ハークネス ”A Discovery of Witches” では魔女(Witches)、魔術師 (Wizards)、吸血鬼 (Vampires)、悪魔(Daemons) がいっぱい出てきます。しかし人間 (Humans) は彼等が近くにいても気づきません。彼等の仮りの姿である学者や医者、銀行家などをそのまま受け入れてしまうからです。(They can hide their secrets in plain sight.) 空想夢想のフィクションの世界と片付けるのは簡単ですが、人間の知覚を超えた世界というのも現実に存在しますね。たとえば、宇宙質量の95%以上を占めるダークマターやダークエネルギー、それに我々の住む四次元を超える高次元空間についても物理学者は疑う余地なく認識していますが、我々は知覚できません。そうした宇宙物理学者達はみんな悪魔や吸血鬼でしょうか??

人間離れした知恵を持ち、人の運命を見通し、目の前で不思議な術を使ってみせるといった能力を備えた存在(creatures)を人は時に悪魔、魔法使いと呼び、多くのばあい迫害してきたので彼等は人目をさけるようになったのでした。限られた世界であっても不思議な力を持つ妖精や魔女達は魅力的で時には天使のように、また時には悪魔の役割を演じ数多くの物語を飾っています。ピーターパンはもちろん、歴史的背景をもつ「アーサー王伝説」をはじめ、ジャンルが違うはずの「不思議の国のアリス」なんかも妖精や魔術師という表現はなくても不思議な才能をもった動物や登場人物が一杯です。

Deborah Harkness (1965/-) と前述Elizabeth Kostova (1964/-)は同世代の才女で二人とも学者です。コストバはエール大学とミシガン大学を出た美術史専門家 (MA Fine Arts)ですし、ハークネスはカリフォルニア大学など3つの大学で学位(BA/MA/PhD)を取得した歴史学者です。才女二人がそろって魔女や吸血鬼の世界を描いたデビュー作で有名になったというのも面白い偶然です。しかも、両方とも英オックスフォード大学が舞台になっています。「ヒストリアン」の主人公はオックスフォード大の女性歴史学教授という設定で、子供の頃から自分の近くに現れる吸血鬼のルーツを辿るというテーマでした。デボラ・ハークネス “A Discovery of Witches” の主人公は正真正銘の魔女です。それも1692年処刑された米国最後の Salem witch, Bridget Bishopの血を引くDr. Diana Bishop という設定。彼女は専門である中世史の研究のためオックスフォード大学に留学中です。大学のボドリアン図書館 (Bodleian Library)で17世紀の錬金術師が書いた謎の書物 (Manuscript: Ashmole 782) をひも解いたことから、不思議なことが次々と起こるのですが、その彼女を守っているのがなんと、16世紀ヘンリー八世時代の豪邸に棲む500歳をこえる英国の吸血鬼の親玉という奇妙な関係の中で物語は進行します。

“There are four kinds of creatures: humans, daemons, vampires, and witches.” “And where do daemons come from? How are we made? Why are we here? Humans hated us because we were different and abandoned their children if they turned out to be daemons. They accused us of possessing their souls and making them insane. Daemons are brilliant, but we are not vicious, not like the vampires. We would never make someone insane. Even more than witches, we’re victims of human fear and envy,” said Agatha Wilson sadly. “Witches have their share of nasty legends to contend with,” I said, thinking of the witch-hunts and the executions that followed.

デボラ・ハークネスは魔術師たちを人に危害を与える伝説上の悪魔とかでなく、知能指数が高い特異な才能をもった異端児的存在として捉えています。そういえば歴史上そうした異端者は幾度も迫害にあってきて、特に中世カトリック教会が絶対権力をふるっていた時代の最先端科学者たち(ガリレオ、コペルニクス etc.) は教会の目をさけ研究論文を密かに科学者同士で継承していました。ダビンチが裏文字で作っていたメモも人目をはばかってのことと言われます。(“It’s no better or worse to have the talents of a witch than it is to have the talent to make music or to write poetry - it’s just different.”)

“Giordano Bruno, an Italian philosopher who supported Copernicus and who crossed the madness-genius divide rather too frequently, I’m afraid.” “I should have known. He believed in extraterrestrial life and cursed his inquisitors on the way to the stake.”
(Deborah Harkness “A Discovery of Witches” 2011)



(注)この小説の鍵である謎の書物 “Ashmole 782” を書いた錬金術師は実在の Elias Ashmole (1617-1692) がモデルになっています。17世紀の歴史学者であり錬金術師でもあったAshmole の厖大なコレクションを引継いだのがオックスフォード大学の「アシュモール博物館」(The Ashmolean Museum of Art & Archeology)です。


▼バックナンバーを読む

■2013年01月05日更新分

■2011年12月02日更新分

■2010年08月01日更新分

■2009年12月05日更新分

■2009年07月01日更新分

■2008年12月01日更新分

■2008年05月01日更新分

■2007年12月06日更新分

■2007年07月09日更新分

■2007年03月01日更新分

■2006年09月20日更新分

 


 
KG HOT NEWS.
circle
copains
KG LINK.