vol.25
インフルエンザ流行への備え
大井 玄
「今度の鳥インフルエンザは本当に危険なのでしょうか。どうしたらいいのでしょう」といった質問がぼつぼつ出始めました。
今年の鳥インフルエンザはH5N1型というウイルスによるもので、トリからヒトに感染した例が東南アジアでも報告されています。WHOの専門家は、何百万人といった死者が出る可能性さえ示唆しました。その根拠には、インフルエンザが1918年から19年にかけて世界中に大流行し、数千万人の死者があったこと、その上昔とちがい現在ではウイルスが数週間で世界中に伝わる可能性があることなどがあります。皆さまご存知でしょう。東南アジアでは、野生のトリ、飼育されているトリ、ヒトが共生していると感ぜられる様子を農村で見かけます。
ヨーロッパとても敏感にならざるをえません。その理由は、やはり野生のトリと飼育しているトリとの接触を完全に断つことが不可能なことでしょう。たとえば、ルーマニアは黒海にそそぐダニューブ河がつくる広大なデルタ地帯があり、毎年何百万羽というさまざまな渡り鳥が、北はシベリアから南はアフリカから飛来するのです。こういう湿地帯の辺縁に住む飼育業者も数百羽くらいの小規模で、自然を利用しながら鶏やアヒルなどを飼育していますから、野生のトリとの「交流」は避けられません。
しかし、そんな大きな危険はないだろうという専門家もいます。第一次大戦後の大流行は、兵士の集団移動、栄養状態の劣悪、予防治療・手段の不在などが大きく寄与していますが、現在は十分ではなくとも多くの国で対応手段を講ずることができます。
ヒトはこの状況にどう対応すべきか。1976年やはりブタ・インフルエンザ大流行の可能性が指摘されたことがあります。アメリカの臨床医学誌で最も権威あるとされるニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンには、大流行の確率は10パーセントだと予測する論文が現れました。政府はワクチン大量生産・集団接種(特に老人たち)の方針を決め実行したのですが、結局空振りに終りました。かえってギラン・バレー症候群などの副作用が続発し、当時の最高責任者の首がとびました。
さて今回はどのように対応するのが実際的か。私は、もし可能なら、それぞれの家庭医を利用されることをお奨めします。そしてワクチンや抗ウイルス薬(タミフル)などがいざという時に利用できるかを確かめておくとよいでしょう。家庭医の意見を聞くと同時に、メディアを通じたインフルエンザの動向に注意を向けてください。備えあれば憂いなしです。
|