健康生き生き
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vol.9
「心の病気」―心とは
大井 玄
前回うつ状態について説明しましたので、これからしばらく「心の病気」についてお話ししたいと思います。
そこで今回は、皆様がある基本的な問題についてどのように考えておられるか、をお尋ねしなければなりません。それは「心の病気」はA)厳密に「脳の病気」であると考えるか、それともB)「脳に直接関係があるものの、心は脳とは別の次元の働きがある」、と考えるかです。
もしA)と考えるならば、脳という神経作用を営む器官を詳しく調べ、その異常を解明し、適切な薬を創りだすことが、究極の「心の病気」に対する治療方法となる可能性があります。
しかしもしB)と考えるならば、たとえば「心」が「脳」に働きかけることにより、「脳」の働きにも影響させることが有力な治療法になります。「やまいは気から」といって気持をしっかりもったり、心理療法を受けることが「脳の働きの異常」でもある「心の病気」に立ち向かう上でも有効な対応になります。
AとBとの区別は重要です。たとえば、ある朝私は通勤の途中で道を歩きながら色々なことを考えているとします。道に沿って流れる小川を泳ぐ魚の影を見て少年時代の魚獲りのことを思い出したり、今日書かなければならない文章の構成を考えたりしています。この時、私の脳神経ではいくつかの場所が興奮したり、それに伴う電気的な流れがあることも確実です。しかし私の思考の内容や深さは、脳の興奮や電気的流れで全て説明できるものでしょうか。
唯物論の立場にある人なら、実際に存在するのは物質だけであって、思考も感情も全て物質から構成された脳という機関の、物質的動きの「結果」起っているというでしょう。だから物質という要素まで還元してしまい、物質を細胞や器官まで再合成して適切な指令を与えれば、思考や感情を再現できると主張するでしょう。
反対に、心に独自な物質の働きとはちがう次元の働きがあると考える人は、心の働きは要素に還元できないと云うでしょう。考えのまとまり、深さなどは、要素を集めたものとは異次元の働きであると主張しています。
以上のような哲学的立場のちがいが、[心の病気]に対し、治療を含めて異なるアプローチをつくり出します。次回はそのようなことについて紹介したいと思います。
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