|
健康生き生き
|
vol.6
東洋医学をたずねて
大井 玄 西洋医学と補完・代替医療(CAM)とを一つにして統合医学を成立させようという動きが、世界各地において生じているようです。西洋医学の訓練を受けた者としてCAMの実態を知る必要がありましょう。
さてCAMといっても、漢方、ホメオパシー、アーユルヴェーダなど様々です。今回は東洋医学でもユニークな理論に基づき、奇蹟のような医療を行っておられる鹿児島市の
有川貞清先生の診療所を訪ねました。
先生は八十才くらい、冬なのに半袖、素足でサンダル姿です。最初の患者さんは六十代の女性、左手の掌の母指球(親指の付け根)が腫れて痛く握ることができません。先生は彼女に自分の1メートル少し前に立ってもらい、足先から上へ、頭から下へと眺めた後、今度は後を向いてもらい同様にしました。次に患者さんの頭の頂点と右肩に鍼を一本ずつ助手に刺させました。「どうですか、拳(こぶし)をつくってごらん」と先生が言うと、不思議にも左手の堅く腫れた部分が柔らかくなり、痛みが消えているのです。
これは診療の一例にすぎませんが、先生の診察は「望診」と言って患者を着衣のまま見て、“気”の滞っている点(気滞)を感知(先生によれば「印知」)するもので、それにより反応点という鍼灸の治療点を見出すものでした。
さらに「切診」といって手を体表に近づけて反応点を見つける方法があり、これは磁力線のように体から手を離して行くと感覚が距離に反比例して減ります。
次の例は五十台後半の女性。急性膵炎の患者ですでに何回かの治療を受けた方です。急性膵炎は胆石、アルコール、種々の薬、ウイルスなどと関係して起る膵臓の炎症ですが、腹痛や背部痛などの症状が現れます。血中には膵臓の酵素たとえばアミラーゼなどの濃度が高くなるなどの臨床検査所見が認められます。この方の場合、数日間背中の真中あたりの強い痛みが続いた後で受診。頭頂と背中に鍼を打ってもらうと、一時間ぐらいして「背中に水の流れるような感じがして気持がよくなった」とその時のことを話してくれました。確かに急性膵炎では背中に痛みが現れ、時に致死的な病気でもあり、これも不思議な治り方だといわざるを得ません。診療所では他に子宮癌、アルツハイマー病などの患者さんも見ました。
私が訪れた時は鍼灸大学の学生が三人、それに防衛医大出身の麻酔医、鹿児島大医学部を出た神経内科の専門医が弟子入りしていました。母の命を救ってもらったので東京での職をなげうって弟子になったと言っていました。
西洋医としての私には理解できないが、このような現象を事実として認めざるを得ないことは確実です。
|
|
|
|
|