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大井 玄（おおい げん） 東京大学名誉教授 医学博士
1935年生れ。63年東大医学部卒業。65年から71年まで米国ベンシルベニア大・デューク大学勤務。77年ハーバード大学公衆衛生大学院修士。78年東大医学部助教授。84年―89年帝京大教授、89年―96年東大教授。
96年―2000年環境庁国立環境研究所所副所長、所長を経て、現在参与。
78年―96年虎ノ門病院内科（非常勤）
専門：社会医学、一般内科、在宅医療、心療内科、環境医学
著書 「終末期医療」 弘文堂
「終末期医療�供� 弘文堂
「医療原論」（編著） 弘文堂
「エイズに学ぶ」（編著） 日本評論社 他
vol.1
コトバと｢健康｣
高校などのクラス会に出席すると、お互いの健康状態が話題になる年頃となりました(私は芳紀？正に六十八歳)。
私たちはほとんど誰でも「健康で長生きをしたい」と思っています。「長生きなんぞしたくない」というへそまがりでも、やっぱり健康で活動的でありたい。「健康」とは世界保健機構（WHO）によれば、まず｢病気｣がない状態です。
ところが友人たちによれば、大なり小なりなにか病気がない人は少数派でした。しかしそれでも、彼らは元気で仕事やボランティアや趣味の探求に日々を送っています。
彼らの話を聞きながら、四半世紀前ある地方都市で六十五才以上の「老人検診」をしたときのことを思い出しました。検診ではアンケート用紙を個々の受診者に渡し、「健康か、不健康か」、｢持病が有るか、無いか｣などを調べたのです。その時四分の三の方には高血圧、関節症など何らかの持病がありました。ところが彼らのほとんどが、自分では「健康」だと思っておられるのです。
まだ若かった私には、目から鱗が落ちるような経験でした。つまり、客観的に何か病気があっても、元気で生き甲斐をもって生活をしている人たちは「主観的に健康であり得る」のです。
この時から私は、コトバの働きについてすこし注意するようになったと思います。世の中は何でも、白と黒、善と悪、健康と不健康とコトバの上で分別することができます。そしてそれを信じる傾向が私たちにはあるようです。しかし現実の私は何でしょうか。「白」くも「黒」くもなく、「善」でも「悪」でもなく、「健康」でも「不健康」でもない。しかし事実として、お陰さまで「元気に」やっています。
とすれば、コトバの持つ強い分別力から自分を解放しさえすれば、私たちは「不健康」を心配することなく、十分｢元気に｣やっていけるのではないでしょうか。
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