vol.20
ハートの日
文明国家の病から心臓を守ろう
日本心臓財団は8月10日を「健康ハートの日」とし、この日を日本の健康の祝日とするよう運動を展開している。8月のハーと10日のトをとって健康ハートと読むわけである。
からだの健康だけでなく、心の健康も含めての意味では、「健康ハートの日」は 意味深い。
この日本の財団は、世界心臓財団の加盟団体だが、先進国の中で、加盟はやや遅かった。これは、日本では心臓病による死因のランキングは、死因の第1,2位を占めている脳卒中やガンに比して、ずっと低かったためである。欧米諸国では、長年心臓病による死亡数は他の疾病死よりもはるかに多く、その意味では心臓病は文明病ともいわれてきた。
なぜ、医学が進歩し、栄養もよい文明国では心臓病死が多いかというと、食事に動物性脂肪(飽和脂肪酸)が多く、その上、糖分も多量に取るからである。両者とも摂取量は日本人の平均の2倍にものぼっている。
そのような欧米食は血液中のコレステロールや中性脂肪を増やして動脈硬化を促進させ、心臓に分布し心筋を養う冠状動脈の内腔を狭くして、狭心症や心筋梗塞を起こすのである。また、糖分のとりすぎは糖尿病を招いたり、中性脂肪を増やして、それからも動脈硬化を進行させる。
ところで、米国では、日本人に心筋梗塞などによる心臓病死が少ないことに注目して、動物性脂肪をずっと制限して、植物性脂肪を増やし、糖分も控えめにする日本食に学ぶ運動が10年あまり前から行われてきた。それに、米国では近年、禁煙運動も盛んで、喫煙者は国民の3割程度にすぎない。
そのようなことから米国の心臓病死は近年明らかに下降している。ところが逆に日本では嗜好は欧米型になり、子供の時から動物性脂肪やバターや糖分を過剰にとるようになってきた。そのため、日本では年々心筋梗塞や狭心症患者が増える一方である。とくに目立つのは40歳、50歳代の働き盛りの男子の発病である。女子はもともと男子に比べると心臓病死の頻度は少ないが近年はだんだんその数が増加しつつある。
文明国家をいうのは、生活が便利で能率がよい国家のことをいう。食生活の面から言えば肉食、糖分が多いこと、食べすぎ、それにアルコールやたばこなどの嗜好品が豊富にある。それに文明生活がもたらす人的ストレス、自動車にばかり乗って運動をしないなどの危険因子が重なると人は心臓病となり、急死もよくおこる。
米国はいまや昔の日本食を指向しているのに、日本人は在来の欧米食指向となり、喫煙率も先進国中の上位にあり、約6割の男性がたばこを吸っている。子供の時代から過食や脂肪食のとりすぎがつづくと、30年後の日本人は米国のように心臓病で倒れるものが多くなろう。
日本は昭和60年以降、心臓病死はガン死に次いで死因の弟2位まで上がってきた。このままでいくと近い将来、第1位になりかねない。
日本人の経済的豊かさが、食生活を欧米化させる。この危険因子に対して警告を放ち、食生活を改め、たばこをやめ、車の生活から歩く生活、そして運動により精神の緊張をほぐすような生活スタイルに早く変容すべきだと思う。8月10日は、このことを国民に浸透させる「健康ハートの日」として、国民1人ひとりの心に銘記される日、そしてこれが祝日となれば万歳である。
聖路加国際病院理事長(関西学院旧制中学部卒)
日野原重明著「いのちの器」より
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