vol.19
老齢者社会と男性
家庭中心の生活が老人の健康を育む
日本の六十五歳以上の人口は18%を超え、欧米並みになったが、この老齢化は他国よりも急速に進み、2030年頃には29.6%を超えると予測されている。そうなると人口の3分の1近くは六十五歳以上の老人となり、まったく世界一の高齢者社会が日本に出現するということになる。
2001年の統計では、日本人の平均寿命は、男子は78.07歳、女子は84.93歳となり、この記録は世界一である。六十五歳を超えた人の余生が不幸であるとすると、高齢社会の到来は悲劇である。日本人高齢者の多くが病気で苦しみ、からだは不自由で外出できず、目は見えず、耳は聞こえない。そして高齢者のかなりの方が痴呆となるとすると、だれも長生きしたくはなくなる。
そこでどうすれば人間は老いても、ある程度自立して行動でき、感覚器の働きもあまり衰えも見せず、いつまでも社会生活に参加できるか、そうしたことを研究し、その成果を行政に具現させるための研究的施設を、国家的見地からも早く設立してもらいたいものである。この方面での国民のニーズは非常に高まっていると考えられる。
さて、日本人の女子の平均寿命はすでに80歳を超えているが、男子は平均して6歳余り低い。この男女差は世界に共通であるが、今のところ男性の追い上げのピッチは遅い。
ではなぜ、男子の方が女子より早死にするのか。女子の場合、卵胞ホルモンが出ることが老化を抑制することに関与しているが、これは男子にはどうにもならない。しかし男性にはいろいろな成人病を進行させる危険因子が、中年からの生活習慣の中に非常に多いという事実を男性自身がもっと注目すべきである。
男性は仕事にのめりこんで、社会的なつき合いが多い。たばこの吸い過ぎや酒の暴飲、そして酒とともに動物性脂肪や塩けのものをついとり過ぎる。そのため食事のなかの栄養のバランスがくずれる。もっと家庭内で主婦の献立による健康食が、規則正しくとれるような社会習慣の変容がもたらされなければならない。家庭中心の生活、これが健康な老人作りにも必要だと思う。
聖路加国際病院理事長(関西学院旧制中学部卒)
日野原重明著「いのちの器」より
【注:平均寿命などの数字は、「国民衛生の動向」
(2002年財団法人厚生統計協会発行)により最近のデータに修正】
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