vol.12
習慣病
「人は習わし次第」病気予防は各自の責任
四月にはいろいろな季節の行事がある。最初の日曜日はキリストのよみがえりを祝う復活祭、八日は釈迦の誕生日の花祭り、そして七日は国連の世界保健機関、そういうとわかりにくいが、なじみの深いWHOのこと、このWHOの発足した記念日をあてて日本では世界保健デーと命名した。日本だけでなく世界に健康の保持増進運動を展開しようという呼びかけである。
二十一世紀までに世界中の国々に健康を与えるという運動が今、展開されている。病気の症状の現れないうちに、健診を受けるといったことが、まだまだされていない国々が世界中には多い。健康管理どころか、食糧や薬品の欠乏している発展途上国国民の健康づくりに日本はお金を出すだけでなく、人材を長期にわたって送り出すということが、外国から要請されている。
また、日本の古い私学の多くが同じく外国のミッションによりつくられたのである。
WHOは、健診で病気を早期に発見するのもよいが、もっと効率のよい方法は病気の予防だと強調し、予防医学を広める運動を展開している。
痘瘡は世界中に予防接種が普及したことで、昭和五十二年(一九七七)からは世界から姿を消し、一九七九年にWHOは痘瘡根絶宣言を行った。しかし、まだまだコントロールされない伝染病や寄生虫症は多い。その上、近年はエイズという効果的な治療法のない新しいビールス性の伝染病が世界に広がり、大きな社会問題を起こしている。
しかし、何といっても、世界中の人々が死ぬ病気の大部分は、生活習慣病と通称される病気であり、具体的にいうと、ガン、心臓病、脳卒中である。ガンの中には原因がまだはっきりしないものがあるが、日本にふえつつある肺ガンのかなりのものは「たばこ」の吸いすぎによるものである。
また食塩のとりすぎと関係の深い高血圧や動脈硬化からくる脳卒中、そして動物性脂肪や糖分のとりすぎ、たばこ、精神的ストレスと運動不足からくる心臓病、特に心筋梗塞など、年配の成人のかかりやすいこの三つの慢性病はすべて、長い間のよくない食習慣や喫煙、運動の不足などの生活習慣の誤りによってもたらされるものである。 だから私はこれらの自分の誤った習慣によりつくられた病気を十五年余り前から一括して「習慣病」と呼んできた。やっと最近は、自分でつくる習慣病は自分がよい習慣に切り替えることで、予防できるということが一般人に理解されるようになった。
東洋では〈習い性と成る〉(『書経』)といわれてきたが、西洋でも昔から同じことがいわれている。 〈人間は慣わし次第のものだ〉(シェークスピア『ベローナの二紳士』)。習慣病はまさに誤った習慣の産物で、めいめいに責任がある。だから私は新しい予防医学のスローガンとしてこう呼びかけたい。
「病気の予防は習慣の変容から」と。これを家族全の参加でやってほしい。
聖路加国際病院理事長(関西学院旧制中学部卒)
日野原重明著「いのちの器」より
|