vol.6
急病に備える
かかりつけの主治医を持つことの大切さ
開業している医師や担当医となっている病院の若い医師は、せっかくの
連休に何かを計画していても、自分のもっている患者さんに異変が起こったりすれば、患者さんのいのちを優先にするために、せっかくの計画の中止も
余儀なくされることがある。
忙しい臨床医は、患者さんの世話で生活のペースが狂ってしまうことが
多い。かかりつけの医師が連休でどこかに出かけた後に、家人が急に重い病気にかかったりすると、以前は、患者さんは運のつきと考えたが、今では主治医の行き先にいろんな手で連絡できる。無線でタクシーが呼べるように、
呼び出しのポケットベルをもって外出した医師には、病院が呼び出しをかけ
て緊急事態を知らせる。それがなくても電話で何とか連絡するとか、心電図を電話回線で送ったり、また、ファクシミリで必要な情報を離れた医師に送ることもできる。テレビ電話も活用され、自宅用のファクシミリが普及している。
さて、いくら成人が予防的に毎年人間ドックを受けていても、またたとえ、
健診のデータはよいといわれても、ある日突然、緊急事態がからだに起こるということを40歳以上の人は、当人はもちろん家族のものも平素から心得て
ほしい。一番多い危険な緊急事態というのは、心筋梗塞、また動脈りゅう瘤破裂、
次いで脳卒中、肺炎など。また年配者ではちょっと転んでも骨折を起こすことがある。
最近の救急車のサービスは非常によいが、問題は連れていかれる救急病院がどこかということである。せっかく救急入院できても、専門医のいない施設とか、心筋梗塞であった場合などCCU(心筋梗塞患者集中監視室)の備わって
ない病院に入院すると、四六時中の病態の監視が不十分なために、患者の急変への対応が遅れることもある。
かかりつけの医師が不在でも、信用のおける病院に緊急入院できて、その担当医とかかりつけの医師とが、電話やファクシミリで情報交換ができることが大切である。そのためにも、だれでも平素からかかりつけの主治医をもち、
万全に備えること。これは、時には人間ドックを受けること以上に大切で
ある。特に中高年の方が、夜中や休日の胸痛や異変を感じた時は医師に早く連絡して、電話でもよいからどうすればよいかという指示を受けること。そのために平素から医師との連絡方法を取り決めておくことが、いのちの安全上、
必要であることを強調したい。
聖路加国際病院理事長(関西学院旧制中学部卒)
日野原重明著「いのちの器」より
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