E-News & Songs 2022年5月12日 例会報告 南井克之
4月19日付けのJapan Times記事を教材に使い、オンラインで行った5月度の勉強会。ロシアのウクライナ侵攻による悲惨な戦況が報じられる日々であるが、トピックに選択したのは、その影響から輸入物価が高まり、日本経済がインフレになることが懸念される円安問題である。記事のタイトル、Japan’s trade shifts mean a weak yen is likely here to stay。この10年間の日本の貿易収支の変化を見れば、円安傾向は今後も更に進みそうである・・・という意味合いになるであろう。記事と我々が討議した内容は以下である。
(記事の概要)2月14日に始まったロシアによるウクライナ侵攻に対処する為、西側諸国が世界的なシェアの大きいロシアの石油・ガス・希少金属などに輸入禁止の制裁を加えたことによる世界的燃料価格などの高騰気配、また、ロシアやウクライナの両国が世界的生産シェアの高い小麦や穀物などの農地や港が戦いの中で破壊されたことによる農産物価格上昇への影響懸念もあって、世界的にインフレの兆しが見えてきた。その中で、米国は、ロシア侵攻の前から米国内のインフレを抑える為、国内金利を段階的に引き上げる金融政策を取り始めていたが、日本の低金利は据え置かれて、日米間の金利差が拡がり、その結果、対米ドルがこの20年間で最低の円安となった。その円安が短期に終わるのか、続くのかと、何らかの手掛かりを求めて、市場は警戒しているが、一部の市場分析エコノミストは、燃料、鉱物資源、多くの原材料、農産物への輸入依存の高い日本は一層の円安圧力により、輸入コストが増えるので、慢性的な貿易赤字を抱え込む状況になりそうであると、更には「最早、これは構造的な問題である」という想定で、日本は対策に取り組まなければならないとも言う。今後、年間の経常収支も恒常的赤字に陥るかも知れないとの懸念も拡がり、一層の円安傾向へと拍車を掛ける、また、パンデミックへの対策や世界的な脱炭素化への動きも不可逆の要素となっており、今や円高への圧力は減じてしまっている状況下にあることが確かな構造的変化であると受け止められるようにもなり、その面からも、円安傾向は長く続くと受け止めなければならないと思われる。
(記事へのコメント)日銀黒田総裁の国内外での発言に見られる表現力・説得力の欠如が、日本の金融政策が国際的な理解を得られ難い一要因となっているのではないか?本人がNYの会議でズバリの表現を使ったか否かは不詳であるが、当地の新聞が「日銀の姿勢は、パンデミックの中での経済下落に備え、金融引き締め対策に動いている米国FRBや欧州ECBとは、対照的である」、「総裁は、急速な円安進行の引き金となったと懸念が高まる中でも、日本の金融緩和策は継続する必要があるとして、弁護した」、また、ワシントンでの20ヵ国の金融会議では、「日本のインフレは原材料価格の値上がりに起因したものであり、持続性 (sustainability) に欠ける」と話し、インフレ率については長期の政策目標として2%を目指している。が、資源の少ない日本は、他の国々に比べて、原材料のコスト上昇やロシアへの制裁に起因する副作用の影響を受け易いので、此れまでの金融緩和を継続して、經濟を元に戻す、前向きなサイクルを速く取り戻したい・・・・」とかと一連の説得力のない発言をしたようである。(相手にとっても、その場にそぐわない用語や曖昧な)表現を使って発言し、その場の聞き手をはぐらかしているようにしか思われない。日本国内の発言でも、内容がしっかりと伝わらない節があるが、国を代表する立場の重職者に於いては、特に海外では、何事も言いたいことは、心底からの誠意ある言葉を使い、相手に真摯に伝わるように努めなければならない。総裁の一連の曖昧な発言も円安進行に拍車を掛けているのではないか?実際、此の一連の海外での総裁発言後に、米国FRBが インフレを抑える為に、年末に向かって、積極的な金利上げ政策を打ち出したこともあってか、円は対米ドルで、20年振りの129円という安値に落ち込んだと、教材の記事は締めている。
(討議の概要)我々はロシア/ウクライナ侵攻が浮き彫りにした各国のインフレの進行、天然資源量、輸入依存度、経済力、先端技術力、軍事力、貿易収支、経常収支、政策金利、夫々の先行きに関する思惑、外貨保有量、更にサプライチェーンに於ける役割など、様々な要素の複雑な絡みとの関連分析で、円安問題の現状と先行きを議論した。結論として、日本は様々な分野で創造性を失い、単なる世界のサラリーマンになってしまった。人、モノ、カネ、技術が日本から逃げてしまった故に起こった円安ではないか、海外に出て行ってしまった、これ等の大切な資産を早く日本に取り戻し、国内で有効活用するべきではないか、さらに大事なことは、日本はDX化とソフト化と脱炭素化を実現する新たな技術立国を実現し、その為に小学校から始まる教育・入試制度や仕組みの一大変革を目指すべきと、筆者は考える。なお、本日の勉強会のハイライトは、学生時代は母校の経済学部で勉学、社会人時代は某大手銀行に勤務し、経験を積んだ後、経営コンサルタントとして、金融関係に造詣が深いサークル会員に、 “金融政策の構造や円安の動きの構造”を解説して貰ったことであった。準備された資料では、日本の経常収支の推移もグラフは一目で分かり易く、25年前の1996年から2007年までの10年は、我が国の貿易収支・経常収支は共に増え続けたが、その後は、両収支共に下がり傾向になり、貿易収支が赤字に転落するだけでなく、経常収支も赤字近くにまで落ち込む数年間(2011~2014年度)もあった。ごく最近の2021年度については、速報値では2年振りに5.3兆円の貿易赤字になった模様。経常収支は不詳。1990年代からの5度の円安時期とその時のBOJとFRBの金利推移を確認し、その背景から現状を見ることができた。心配なことの多い世の中であるが、この資料により、しっかりと、色々と絡み合う情報を見守りながら、我が国が懸念すべきことや諸要素の絡みを整理し、把握する上での大いなる助けになったと思っている。
We read an article of The Japan Times on the title, “Japan’s trade shifts mean a weak yen is likely here to stay.” The article writes about various factors behind the current yen’s value hitting its lowest level like \128 level in 20 years against the U.S. dollar. Market participants are keenly watching for hints as to whether the yen’s weakness will be short-lived or a prolonged trend. Some economists say, however, that the weakness is likely here to stay, as Japan is expected to face a chronic trade deficit, putting further downward pressure on the yen, with the assumption that it is already a structural problem.
Factors or key words to influence the yen value, which we have come to seriously recognize, are the following: Easing monetary policy by BOJ vs tightening monetary policy to which U.S. Federal Reserve and the ECB are moving, Japan – poor in natural resources, – growing import costs of oil, gas and rare metals and soaring prices of agricultural products, – prospect of trade balance and annual current balance,- structural change of trade balance. – Radical reform of the industrial structure, essential for regaining Japanese market power, which can only be accomplished by digital transformation, service-aid oriented business and decarbonization.
Katsuyuki Minamii
2022年5月24日 提出