三日月会9月例会は元警視庁捜査一課長光眞 章(ミツザネアキラ)氏に「警察科学捜査の経過と現状」というタイトルで科学捜査の進歩についてご講演いただきました。近年、科捜研や捜査一課、法医学などがテーマのドラマがたくさん放映されています。どこまで事実にもとづいているのか、実際の科学捜査はどうなのかを知りたいということで39名のみなさんにご参加いただきました。ありがとうございました。
はじめに
平成19年の退職後は警視庁のシニアアドバイザーとして後進の育成にあたってこられました。学問としての捜査の説明ではなく実務家として関わられた事件の中から捜査について話していただきました。
1.科学捜査の現状
(1)指紋鑑識
科学捜査の根幹は指紋にある。科学捜査は科学的な物証を捜査にいかすものを言う。鑑識だけではなく今はもっといろいろな科学捜査がある。明治時代に宣教師ヘンリー・フォールズ博士が、大森貝塚の土器の指紋や日本の指紋の押捺の風習を見て指紋に興味を持ち中央区明石町で研究を始めた。1880年に「ネイチャー」に研究論文を発表。日本警察の指紋制度は、明治44年から始めた。明石町に日本の「指紋研究発祥之地」の碑がある。指紋を使うまでは糾問的で問いただすのが捜査の主流だった。日本の技術は緻密で精緻で技術力が高い。平面でない凹凸のあるところからもとれる技術がある。
(2)科学捜査の進捗
鑑識から捜査一課に転属。これからの捜査には「N・NTT・DNA」と「V」が必要ということを知った。Nは自動車ナンバーの読み取り装置、逃走ルートが追跡できる。NTTは電話のことでこれらの記録はいろいろな場面で活用されている。犯人が多いときは携帯の相互の通話記録が証拠になる。DNAはディオキシリボ核酸。この検出が進みいまは指紋を凌駕するようになっている。犯人逮捕にどういうふうに利用できるか。脅迫状の切手の裏の唾液を鑑定して犯人にたどりついたこともある。指紋はどういうふうについたか方向がわかるのに比べDNAは存在がわかるだけなので間違いを生む可能性もある。映像(V)も捜査に有効で防犯カメラはコンビニから普及していった。最近のビデオは解像度も高く長時間保存できるようになっている。
(3)司法制度改革と一層の科学捜査の進展と今後の課題
凶悪事件の特別捜査本部の設置は、以前は年間20件位あったがいまは5件前後。それだけ治安がよくなっている。防犯カメラの普及による抑止力で事件は減った。去年は12年ぶりに新宿署で捜査本部が設置された。車搭載のドライブレコーダーの映像も非常に役に立つ。聞き込みより防犯カメラに頼るなど捜査方法が変わってきている。
かつては取り調べで犯人に真実を話させることを重視したがいまは取り調べの可視化が進み供述に頼る捜査はしなくなった。
しかし犯人の心情・動機については聞くことも大事だ。殺人事件の被害者の状況から推定できることもある。家庭内の事件もむずかしい。幼児が虐待の場合、家庭内は指紋があるのは当たり前、犯行の立証には困難が伴う。
人権を尊重する慎重な捜査は大事だが連続放火事件などは人命に関わる被害を出さないための急速な逮捕もありうる。また、反社会勢力が関わる証拠がとぼしい難しい事件の場合では裁判が長引くことになってもその間は事件の発生を防げるという側面もある。
2.光眞氏の最近の活動
(1)NPO法人全国万引犯罪防止機構事務局長代行としての活動
全刑法犯に占める万引の割合は、高くなっている。万引は説諭でかえすこともあるので実態の統計件数は把握できていない。年少者は減りつつあるが、高齢者による犯行は増えている。孤独感、孤立感からと思われる。在日外国人の万引きは大きな袋を8袋も持ってという大規模なものもある。借財をして来日しているのが原因で常習的になっている。
防止機構では、中学生が悪い道にいかないように全国の中学に40部ずつ「中一の保護者さまへ」というパンフを50万部配布。万引きは犯罪という啓蒙活動に努めている。
(2)足紋活用の普及活動
東日本大震災のときに身元が判明しないご遺体がたくさんあった。指紋は1000万人分のデータが警察にあるがこれは犯罪歴のある人だけ、DNAも親族が必要。足紋は12点あれば特定できるがどこで保管できるかが決まらず普及が進まない。エンディングノートに残すのも一策。
3.余談として
(1)刑事ドラマ全盛と真偽
科捜研が犯人を捕まえることはない。科捜研は鑑識と共に捜査の援護をしている。捜査支援分析センターも一体となって解決を目指す。防犯カメラ情報を集めたり、捜査と鑑識が一体となって解決にあたる。
今回の講演はマイクなしでした。光眞氏は捜査一課長だったときは50人から80人の捜査員に檄をとばしてこられたので、いまでもマイクは必要なし。しかも最後までお立ちになったままでした。ドラマより実際はもっとハードな毎日だったそうです。安心して暮らせるのはこんなシステムと人に守られているからなのですね。
【以下ご案内文】
三日月会9月度例会は、元警視庁捜査第一課長 光眞 章(ミツザネアキラ)氏をお招きし、下記内容にてご講演を賜る事になりました。
最近では、テレビ番組の「科捜研の女」等で、警察の科学捜査が話題にのぼっていますが、光眞氏は、亀有警察署長や凶悪犯罪を担当する警視庁捜査第一課長を歴任され、退職後は、「足紋」の利用を普及する活動をライフワークとして活躍されています。現在は、万引犯罪防止の最前線に関して顔認証にも深い知見を持たれ、科学捜査の原点から現状に至る社会的・専門的経験に基づくお考えをご講演賜ります。
是非とも多数の皆様のご出席を賜わりますようご案内申し上げます。
記
日 時:2019年9月26日(木曜日)14時30分~15時45分【14時開場】
先月8月から開始時間が変更になっておりますのでお間違えのないよう注意ください。
場 所:関西学院同窓会本部 銀座オフィス
東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階
アクセス:都営浅草線「東銀座」A8徒歩1分、銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A12徒歩3分
(アクセスマップ) http://www.etsuraku.co.jp/access.html
会 費:1000円 (小ペットボトルの飲み物を用意しますが、軽食の提供はございません)
講 師:光眞 章(ミツザネ アキラ)氏 元警視庁捜査第一課長
1966年~ 警視庁巡査
亀有警察署長
鑑識課長
2006年~ 捜査第一課長(第63代)
現在:NPO法人全国万引犯罪防止機構 事務局長代行(71歳)
趣味:散歩・釣り
タイトル:『警察科学捜査の経過と現状』
*申込締切 2019年9月19日(木)で締め切りました。
尚、同窓会東京支部のkg_tokyo_soumu@yahoo.co.jpへのメール返信では、申込み受付出来ませんので、くれぐれもお間違えの無いようにお願い申し上げます。
*お問合わせ先:東京支部 TEL 03-6260-6277
【次回予告】10月度例会は、10月23日に学院史編纂室池田裕子氏ご講演を賜る予定でございます。
以上