【ご講演の概要】
5月度三日月会は、オープン間近の銀座オフィスでの開催でした。タイトルは「百寿者の秘密」です。講師の権藤恭之氏は関西学院大学文学部心理学科を卒業して、現在大阪大学人間科学研究科の教授をされています。「老年精神医学」「長寿科学「認知症ケア」等「老年学」において、たくさんの研究で賞を受けておられる権藤先生に「百寿者の秘密」を伺いました。46名のみなさまのご参加ありがとうございました。
まず、人口面から見た百寿者の現状として、1986年以来日本女性の平均寿命が最も長く、2050年には「人生90年時代」を迎えることになると推測されます。百寿者の人口も今は3万人弱ですが、14年後には30万人に達すると見られています。「5—COOP Study」というデンマーク、フランス、スェーデン、スイス、日本の五カ国とデンマークを比べてどの国が百歳になりやすいかを調べた研究があります。それによると、デンマークを1とした場合、日本は2.5倍百寿者になりやすいそうです。「百寿者先進国」として日本人がどのような生活をしているかが世界中から注目されています。
次に実際の百寿者の方々に会って、調べた研究報告があります。超高齢の歴史的人物であるオールドパーは152歳と言われていますが、確かなところでは、フランスのジャンヌ・カルマンさんが世界最長寿122歳まで生きました。これは人類の限界寿命と言われますが、300~400年に一人しか現れないそうです。ちなみにカルマンさんの118歳の認知機能は、視聴覚の衰えは大きいですが、接触でフォークや鍵が理解でき、簡単な足し算ができ、複雑な文章も理解して、話も滑らか、ということです。語想起課題というテストがあって、例えば頭に「あ」のつく言葉を1分間思い出すのですが、カルマンさんは練習効果があり、6ヶ月後に成績が上昇しました。このテストで1分間に10個以下だと医者に行った方がいいと言われています。日本人では権藤先生が、116歳まで生きた木村次郎右衛門さんを111歳の時にインタビューされましたが、1時間半正座をしたまま元気に答えられたそうです。注目すべきは、木村さんの「幸福感」の高さです。これは今回の最大のテーマである「老年的超越」に繋がります。
さて、高齢者をどのように定義するか、ということですが、現在の「65歳」を「75歳」に見直すべきだという提案が出されています。以前の高齢者に比べて今の高齢者は健康状態がよくなっており、10年前の10歳若い人と同じくらいというデータもあります。また、「余命」と「健康余命」の問題もあります。「健康余命」とは、自立して生きられる期間のことですが、両者の差(ギャップ)が少しずつではありますが、縮まって来ています。縮まるにつれて、理想である「ぴんぴんころり」に近付くのですね。長生きすればするほど、不健康期間は短くなります。言いかえれば、不健康期間が短いから長生きできると言うことになります。
「サクセスフルエイジングモデル」という研究によると、「病気がないこと」「認知機能と身体機能が保たれていること」「社会参加をしていること」の三つが重なると、「サクセスフルエイジングモデル」となるそうです。ただ、百寿者、超百寿者ではこれはほぼ不可能と思われます。しかし実際の百寿者に会って話を聞くと、体は元気がなくなっても、幸福感の高い方がたくさんいらっしゃいます。なぜでしょうか。いよいよ最大のテーマの「老年的超越論」に入るのですが、まず何人かの百寿者の言葉を紹介しましょう
「生きていたらダメながらも娘の話し相手になってあげられる」(105歳女性)
「遊んでいる家族を見ると子供の親、またその親、子供の子供、またその子供…つながりを感じます」(94歳女性)
「子供の頃には子供の楽しみがあったが、年寄りには年寄りの楽しみがある」 (107歳女性)
「子供には体を動かす楽しみがあるが、年寄りには気分的な楽しみがある」(108歳女性)
「若い頃は不細工でいやだったけれど、年を取るとみんな同じになり、気にならなくなる」(85歳女性)
「朝、目が覚めると、まだ生きているなあと不思議に感じます」(92歳男性)
「生かされていると思うことはありますか」という質問に、70歳は怒りますが、80歳は「当てはまります」と答えるそうです。
権藤先生はSONIC研究とう高齢者の身体の運動能力、認知機能、また心理的側面からの研究をされています。それによると、生物学的には年齢が高くなるほど能力は低くなりますが、心理的にはほとんど変化せず、若干上昇するそうです。これを「エイジングパラドックス」といいます。身体生理機能は低下しても、精神的機能は維持されているわけです。これこそが、「老年的超越」と呼ばれる心理的な発達変化の現れなのです。
「物質主義的」で「合理的」な世界観から、「宇宙的」「非合理的」「超越的」な世界観へと変化します。上手に年を取るとはこういう境地に至ることなのです。
百寿者の方の心境をうかがい年をとることの精神面の充足を初めて知りました。考え方がかわることで体の元気のなさを補うことができるというのはすばらしいことですね。
【以下案内文】
三日月会5月度例会は、老年学の分野でグローバルに活躍しておられる大阪大学人間科学研究科教授権藤恭之先生に下記内容にてご講演を賜る事になりました。
日本の高齢者の現状は、平成29年の日本の百寿者は68,000名であるが、15年後には30万名を超える見込みで、世界と比べても百寿者先進国であります。百寿者の事例として世界最長寿で122歳まで生きた女性の認知機能や、日本最高齢男性の幸福感、お元気な百歳ランナーやスイマーの紹介、農村部での百寿者調査ではかなりの高齢まで畑仕事を続けている例が多い等、興味深い内容に関してご講演賜わります。
なお、会場は、正式には6月1日から同窓会本部の首都圏拠点として開設致します「銀座オフィス」を同窓会本部の特別なご配慮により、5月の使用を認めて頂きました。
是非とも多数の皆様のご出席を賜わりますようご案内申し上げます。
記
日 時 :2019年5月24日(金曜日)13:30~14:45【13:00開場】
場 所 :関西学院同窓会本部 銀座オフィス
東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階
アクセス:都営浅草線「東銀座」A8徒歩1分、銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A12徒歩3分
*松屋通りと昭和通りが交わる角、左手のビルで、1階にファミリーマートが入っています。
(アクセスマップ) http://www.etsuraku.co.jp/access.html
会 費 :1000円 (小ペットボトルのお茶を用意しますが、軽食の提供はございません)
講 師 :権藤 恭之(ごんどう やすゆき)氏 大阪大学人間科学研究科教授
1989年 関西学院大学文学部心理学科卒業
2002年 関西学院大学 博士 並びに(財)東京都老人総合研究所 研究員
2018年 大阪大学人間科学研究科教授
<受賞>
2006年 日本老年医学会優秀論文賞、日本老年精神医学会優秀論文賞、
第3回日本認知症ケア学会・読売認知症ケア賞
<その他>
1994年9月-1995年3月 厚生省 長寿科学研究事業
研究者海外派遣事業米国ジョージア大学 老年学センター
2006年8月-2007年2月 長寿科学振興財団 長寿科学研究事業
研究者海外派遣事業 米国ジョージア大学 老年学研究所
タイトル:『百寿者の秘密』
*申込締切 2019年5月16日(木)で締め切りました。
尚、同窓会東京支部のkg_tokyo_soumu@yahoo.co.jpへのメール返信では、申込み受付出来ませんので、くれぐれもお間違えの無いようにお願い申し上げます。
*お問合わせ先:東京支部 TEL 03-6260-6277
【次回予告】三日月会6月度例会は、6月19日(水)に仮題『チェロの魅力』と言うタイトルで西谷牧人氏(東京交響楽団首席チェロ奏者)にご講演を賜る予定でございます。
以上