ワインを通して人と人を繋げ、日常的にワインを楽しむ文化を作っていきたい。
仲良しの奥様と。ワイン造りも二人三脚で。
Profile
シャトー・イガイタカハオーナー、ワインコンセプター。1954年 兵庫県西脇市生まれ。関学高等部を経て1972年関西学院大学経済学部入学。中学のクラスメイトとして出会った奥様と二人三脚で造るワインは、世界的な評価基準「パーカーポイント」で100点中95点を獲得するなどその品質が高く評価され、JAL国際線のファーストクラスにも採用されている。
シャトー・イガイタカハのオーナーであり、カリフォルニアワインの企画・製造・販売を手掛ける杉本隆英さん。ご自身の家紋(丸に違い鷹羽)をラベルにしたワインや、漢字一文字のワイン「侍」「園」が人気を博しています。それにしても「ワインコンセプター」とは耳慣れない肩書きですが、どのようにワインを作られているのでしょうか。
スパニッシュ・スタイルのワイナリーを見ると、関学との不思議な縁を感じます。
――まずは、シャトー・イガイタカハのワイン造りについて教えてください。
「カリフォルニアワインを造っていると言うと、広大なぶどう畑を持っているかのように思われるのですが、私たちにはぶどう畑も、ワインを作る醸造所もありません。ではどのようにワインを造るかというと、まずは「どんなワインを造りたいのか」というコンセプトを立てる。それに基づいて使うぶどうの種類や樽を選び、醸造や熟成の方針を決めます。方針に基づく実際の作業はカリフォルニアのプロの職人さんにお願いする、というやり方をとっています。こうして、ぶどう畑も醸造所も持たない私たちが、ワインを造り上げているのです。」
――ワイン造りを本格的に始められたのは50歳を超えてから…ということですが、そこまでの道のりを教えていただけますか。
「兵庫の田舎の町で育ち、中学では野球ばかりしていました。とにかく野球の強い高校に行きたくて、調べたんですよ。そしたら、関学高等部がずいぶん前に甲子園に出ていたんです。それで、甲子園に出てやろうと思って入学しました。入ってみたら部員は1学年5人ほどしかいないし、見学に行ったらその場で試合に出してもらえるような…全国を狙う雰囲気ではなかったですね。それでも3年間、一生懸命やりました。大学でも野球部に入ったのですが、入学してすぐに肩を壊して、秋には退部することになったんです。これからどうしようとブラブラしているときに、高等部の数学の先生に紹介されて、コンピューターの会社でアルバイトを始めました。数学が好きだったので、コンピューターのことが楽しくて、働きながらプログラミングを学びました。ろくに大学にもいかず1日中バイトをして、結局その会社に入社しました。コンピューターが急速に進化する時代にシステム・エンジニアとしてすごすうちに、94年、インターネット時代が幕あけします。「これや」と思いましたね。転職した外資系IT会社では、シリコンバレーの製品を日本のユーザーに合わせてカスタマイズし提供する仕事を始めました。大いに売り上げも良く、手ごたえを感じましたね。このころ、仕事で行ったアメリカでカリフォルニアワインに出会います。初めて飲んだときから、こんなにおいしいものが地球上にあるのかと虜になりました。」
――当時、日本ではあまり飲まれていなかったのでしょうか?
「まだ全然知られていませんでした。それで、誰かとカリフォルニアワインについて語り合いたい、いっしょに楽しみたいと思い、「CWFC(カリフォルニアワインファンクラブ)」というサイトを立ち上げます。そのうちにこのクラブのメンバーで定期的にワイン会を開くようになり、そこで飲むためのワインをカリフォルニアまで買い付けに行くようになります。」
――まさにどっぷりハマっていったということですね。
「カリフォルニアのワイナリーは教会と関係が深い。行くとわかりますが、サンディエゴから北へ点々と宣教のための教会がたてられ、そのそばにワイナリーも作られている。ワイナリーの建物なんて、関学の校舎とそっくりなものもありますよ。スパニッシュ・スタイルの、美しい建物。真面目な学生ではなかった私ですが、それを見るとなにか縁を感じました。」
――実際にワインを造り始めたのもこのころでしょうか。
「ごく小規模に自分たちが飲むワインを、地元のワインメーカーに要望を伝えて造ってもらいました。自分好みのカリフォルニアワインが出来上がり、親しい友人たちとグラスを傾けるという、この上ない楽しみを知ってしまったのです。このころはまだ、趣味の延長としてワインと付き合っていました。ビジネスとして向き合い始めたのは2012年、東京での仕事をリタイアして西宮に戻り、娘たちが結婚して家を出たあと。家族の形がかわったことをきっかけに、自分たちのワインを一般販売することにしたのです。」
――こうして本格的に造り始めたワインがパーカーポイントの95点をはじめとする、高い評価を得ていくわけですね。
「幸運だったと思います。評価していただいたことでシャトー・イガイタカハのワインを知ってもらい、みんなに飲んでもらえるのが嬉しいですね。シャトー・イガイタカハの目指すところは日本人の舌に合うワイン。例えば「ヒラメの昆布締めに合うシャルドネ」というコンセプトを決めて造っていたりします。じつはこれ、エンジニアとして働いていたときと変わっていません。コンピューターとカリフォルニアワイン、扱うものは変わりましたが、やっていることは同じ。日本人に合わせてカスタマイズし、日米の懸け橋になりたいと思っているのです。」
――今後の目標を教えてください
「もっと手広くやろうとか、会社を大きくしてワインをたくさん作って…とは考えていないんです。それよりも今、いろんな地方で年間50回くらいワイン会をひらいています。ワインを通してそこに住む人たちが仲良くなってワッと活性化する。人と人とがつながって、またそのつながりが出会いを呼ぶ。それが楽しい。これからも日本人の舌に合うワインを造って、ワインを通して人と人とを繋げていきたい。日常の中で、みんなでワインを楽しむ文化を作っていきたいと思っています。東京でも今後、さらに活動の幅を広げて、多くのワイン好きの同窓の方々と出会えることを願っています。」
――最後にコパン読者にメッセージを
「ワインは下を向いて黙って飲むのではなく、顔を上げてお喋りしながら味わうのにピッタリなお酒です。ぜひご夫婦や家族、お子さん、お孫さんと、おいしいものを食べながらワインを飲んでみてください。絶対に話が盛り上がりますよ!」
杉本隆英さんのワイン造りに興味を持ったかた必読!
『幸せになりたければワインを飲みなさい』自由国民社
生産者のグレッグさん、スティーブさんと。
シャトー・イガイタカハのワインが飲みたくなったら
コパン KGランナーズより