三日月会2018年9月例会は、ノンフィクション作家としてご活躍なさっている本岡典子様をお招きして、代表作「流転の子 最後の皇女・愛新覚羅嫮生」にまつわるエピソードなどを、前半はストーリーの解説、後半はご本人による朗読という二部仕立てでご講演していただきました。66名の方にご参加いただきました。ありがとうございました。
本岡様は社会学部を1978年に卒業され、ニュースキャスターとして仕事しながら、たくさんのノンフィクションを手がけられました。その中で、構想20年、取材執筆に4年の歳月を掛けたこの作品はベストセラーとなり、母校125周年記念イベントとして、企画展並びに講演会が大変な人気を博したことは記憶に新しいことと思います。また、時計台の図書館を博物館として保存する際に、「共同研究アドバイザー」として愛新覚羅家の資料をたくさん提供され、今もずっと研究を続けておられます。
さて、先生がこの本を執筆なさるきっかけとなったのが、1988年公開され、アカデミー賞を総舐めした「ラストエンペラー」でした。会場の参加者の8割がこの映画を「鑑賞した」と手を挙げました。先生は当時アナウンサーとして試写会で司会を務められ、その時に、ラストエンペラーである愛新覚羅溥儀の姪の福永嫮生さんが西宮に在住されていることを知ったそうです。
先生のご本の主人公である嫮生さんは、溥儀の弟君である溥傑さんと日本人の嵯峨浩さんの間に生まれたお子さんで、現在結婚されて福永嫮生さんになっておられます。「流転の子」はその嫮生さんが満州から流転を繰り返し、奇跡的に日本に生還された記録で、背景には満州の興亡も描かれています。
「この作品には莫大な労力、時間、お金をかけました。命を捧げました。書き終わった時に、よく生きていたなと思いました。壮絶、壮大、豪華絢爛なものすごい物語です」
「絆の朝顔」がこの物語のテーマの花です。本岡先生のご自宅の庭と関学のオハラホールにも咲いているこの朝顔は、実は16年ぶりに溥傑さんと再会を果たした浩さんが、日中の国交もない時に、二度と日本に帰って来ないという決意を込めて、朝顔の種を持って中国に渡りました。浩さんが亡くなられたあと、溥傑さんがご自宅の庭で育てられていました。その朝顔が美智子妃のお手によって、皇居の御所で咲いているとのお話でした。力強い鮮やかな大輪の花です。溥傑さんは天皇家と深い縁で結ばれています。7月毎日新聞社主催の書道展が開催され、溥傑さんの書が展示されましたが、天皇皇后両陛下がお出ましになられたそうです。
先生が撮影されたスライド写真を拝見しながらお話を伺いました。北京に今もある醇親王家の屋敷、東京ドーム17個分の広さです。天津租界で暮らしていた溥傑さんは日本に来て学習院大学を優秀な成績で卒業され、陸軍士官学校に入ります。血の出るような努力をなさったようですが、本来おおらかな文学青年で、人を魅了するやさしい眼差しに、妻となる浩さんも惹かれたようです。一方溥傑さんもお見合い写真の浩さんの可憐さに惹かれて、ご結婚を決められました。お見合いというより、政略結婚であったお二人ですが、恋愛として成立するくらい、生涯睦まじく愛し合って過ごされました。満州時代の嫮生さんの写真が一枚だけあります。5歳の頃のお写真で、ソファから顔を出してらっしゃいます。
浩さんと嫮生さんの壮絶な逃避行。浩さんと嫮生さんは新京→通化→大栗子→新京→吉林→延吉→寧安→牡丹江→チャムス→ハルビン→新京→奉天→錦州→葫蘆島→北京→上海という想像を絶する流転の果てに、奇跡が起きて帰国を果たしました。その顛末が書かれた「流浪」の部分を先生が朗読してくださいました。
「相依りて命を為す」
勇気あればこそ、すべての困難を乗り越えられる。
取材の最後、先生は嫮生さんに聞きました。
「嫮生さんにとって一番大切にされている信条は?」
「目に見えないものに包まれ。守られ、生かされていることに、日々感謝して今を生きる」ということでございましょうか。
「静かに生きるものは健やかに行く。健やかに行くものは遠くまで行く」と申します。「静かな心に正しく歩み続けると幸せはきっと訪れる」そう信じております。
語られる言葉はたおやかですが、苦しみに鞭打ち、悲しみに耐え、生きることを遂げようとする真理を感じさせる。限りある命を慈しみ、はるか変わらぬものを見せようとする静かな覚悟、そして最後に、
「命さえあればよろしいのでございますよ。生きてこそ、でございます。」
先生のご本を買い求められた方々がいただいた「絆の朝顔」が来年、大輪の花を咲かせますように。
本岡様、素晴らしい物語をありがとうございました。
【以下ご案内文】
三日月会9月度例会は、今年7月のフェスタ第2部座談会で登壇されました本岡典子氏にご講演を賜る事になりました。本岡氏は、「戦争の世紀」を描く歴史ノンフィクションに力を注がれ、代表作は構想20余年、取材執筆4年の歳月を掛けたベストセラー『流転の子 最後の皇女・愛新覚羅嫮生』(中央公論新社)です。関西学院大学博物館(旧図書館)への愛新覚羅一族の歴史的資料寄贈に尽力され、創立125周年には同大共同研究アドバイザーとして展覧会『愛新覚羅家の人びと』開催に協力、中央講堂で記念講演をされておられます。当日は、ご著書『流転の子 最後の皇女・愛新覚羅嫮生』の取材秘話を交えながら、本編朗読と数々の秘蔵歴史写真で綴る異色の大河講演です。是非とも多数の皆様のご出席を賜わりますようご案内申し上げます。
記
日 時 :2018年9月26日(水曜日)13:30~14:45【13:00開場】
場 所 :関西学院大学東京丸の内キャンパス ランバスホール
千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー10階
サピアタワーオフィス3階受付前に「三日月会受付」(13:00~13:25)を設置
会 費 :1000円(小ペットボトルのお茶を用意しますが、軽食の提供はございません)
講 師 :本岡典子(もとおかのりこ)氏 ノンフィクション作家 / 元ニュースキャスター
1978年関西学院大学社会学部卒業。来夏、6年の歳月をかけたノンフィクション、開戦時最前線の指揮官として日米戦争の中核を担った海軍青年士官たちの姿を膨大な証言と未公開資料で迫る『海兵六十八期―悲劇の青春群像』(仮題・中央公論新社)を出版する予定。更にメディアコメンテーターとしてもご活躍中です。
『100歳夫婦力!二人で始めるピンピン・キラリ』(中央公論新社)『魂萌え!の女たち』(岩波書店)など著書多数。日本文藝家協会会員、並びに日本女性医学学会会員。
タイトル:『流転の子 最後の皇女・愛新覚羅嫮生-相依って命を為す』
*申込締切日は、2018年9月20日(木)ですが、満席となりましたのでお申し込みを締め切らせていただきました。有難うございました。キャンセルされる場合は、下記お問い合わせ先までご一報ください。
尚、同窓会東京支部のkg_tokyo_soumu@yahoo.co.jpへのメール返信では、申込み受付出来ませんので、くれぐれもお間違えの無いようにお願い申し上げます。
*お問合わせ先:東京支部 TEL 03-5224-6226
【次回予告】三日月会10月度例会は10月17日(水)に開催する予定でございます。
以上