三日月会2016年4月度例会のご報告
三日月会2016年4月度例会は、順天堂大学医学部教授・順天堂大学浦安病院院長補佐・救急救命センター長である田中裕氏をお迎えし、『救急医療は社会を映す』と題して救急医療に関する様々な問題をお話しいただきました。50名の方にお集まりいただきました。ご出席誠にありがとうございました。以下講演の概要でございます。
4月14日21時26分、熊本地方を震源とするマグニチュード6・5,震度7の地震が発生し一週間以上経った現在もなお余震が続き、死者は50人近くに及び、8万人以上の人々が避難生活を余儀なくされています。まさに救急医療の最前線といえる出来事です。
救急医療の幕開けは意外に遅く、1967年に大阪府が資金を出して大阪大学付属病院に特殊救急部が開設された年に始まります。開設された理由として、60年代になり車輌の数が増えて「交通戦争」と呼ばれるほど事故による重度多発的外傷の患者が急増したという背景がありますが、はじめはまわりの反応は冷たかったそうです。その後、一酸化炭素中毒、広範囲熱傷(重度のやけど)、重症頭部外傷などの要請が増えて救急医療の必要性が高まりました。
この20年の主な災害、事件を振り返ると、「阪神・淡路大震災」「松本サリン事件」「VXガス事件」「O157集団食中毒」「和歌山ヒ素カレー事件」「池田小学校児童殺傷事件」「福知山線脱線事故」「冷凍ギョーザ事件」「秋葉原殺傷事件」「東日本大震災」「軽井沢バス事故」と続き,今回の「熊本大震災」に至ります。こうした災害や事件に取り組んだことが、今日の救急医療の根幹を成す「テロ対策」「集団災害医学」「危機管理学」へと結実して行ったのです。まさに「救急医療は社会を映す」という言葉通りです。
阪神大震災の教訓によって創設されたDMATと呼ばれる「災害派遣医療チーム」が災害時に活動しています。自給自足をモットーに、ドクター2人、ナース2人、事務1人の5人で組んで、勝負といわれる「72時間」の救命活動に取り組んでいます。家具の下敷きになったときなどにおこる「クラッシュ症候群(高カリウム血症)」や、今回の地震でも多くみられた「エコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)」などの緊急性の高い疾病は救急医療チームの出動によって救われてきました。
「医療者の義務」であるはずの救急医療にも様々な課題があります。救急には緊急性により1次から3次までに分類されていますが圧倒的に多いのは1次救急です。「入り口,出口問題」も深刻です。「入り口問題」としていわゆる「たらいまわし事件」など、患者の受け入れを拒否する医療機関の問題があります。超高齢化社会になり救命センターにはいってこられる4分の1は高齢者の方です。
「出口問題」とは退院後の受け入れ先です。退院に当たって家族が受け入れない、転院できないなどの理由で高齢者の救急救命センターでも入院期間が長期化していることが挙げられます。
他にも救急医療に携わる人材の少なさ、過酷さ、経営上のメリットのなさ、訴訟のリスクなどたくさんの問題が顕在しています。事故に伴う「脳死下臓器提供」についてもドナー側としての判断が求められています。
患者側にも問題があります。大病院志向、過度の権利意識のみならず、「コンビニ受診」と呼ばれる休日や夜間に緊急性のない受診を要請する人が増えているということも考慮すべき問題といえるでしょう。「自分の命は自分で守る」という観点から、無意味な延命治療についての意思表示もぜひ元気なうちにすませておきたいものです。
救急医療は最後の砦、日々研鑽して救命できるあたらしい治療法を学んでいるというのが締めくくりの言葉でした。現在全国で280箇所の救命センターができています。災害やテロなど不安の多いこれからの生活をしっかり支えてくれるなによりも頼もしい存在の今を教えていただきました。
以下開催案内です。
三日月会2016年4月度例会のご案内
三日月会2016年4月度例会は下記内容にて、講演者の専門としている救急医療の経験から、我が国における救急医療の進歩、集団災害の診療経験、昨今問題となっている高齢者救急医療や、患者たらいまわしの実態、小児虐待などの問題について分かり易く解説して頂けると思います。多勢の皆様のご参加をお待ちしております。
記
日 時 :2016年4月21日(木)12:15~13:30
場 所 :関西学院大学東京丸の内キャンパス ランバスホール
千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー10階
サピアタワーオフィス3階受付前に「三日月会受付」(11:30~12:10)を設置。
会 費 :1,500円(軽食は11:45から講演前にお出しいたします。)
講 師 :田中 裕(たなか ひろし)氏
1956年12月12日大阪府に生まれ、大阪府立北野高校卒業後、大阪大学医学部入学。1982年3月大阪大学医学部医学科卒業後、同医学部付属病院の特殊救急部で研修医。その後、国立東静病院(外科臨床研修医)恩賜財団済生会神奈川県病院(外科常勤嘱託医)。1988年2月医員(大阪大学医学部付属病院特殊救急部)。1990年5月国外留学(米国セントルイス大学医学部)。1993年8月大阪大学助手(救急医学講座)。1998年4月助教授(救急医学講座)。1993年~2007年大阪大学勤務中に、阪神・淡路大震災やオウム事件のVXガス殺人事件、堺市のO-157集団食中毒、教育大池田小学校児童殺傷事件、JR福知山線脱線事故などの診療にあたる。2007年9月1日順天堂大学医学部救急災害医学教授、同大学院医学研究科救急災害医学教授併任(順天堂大学浦安病院救命救急センター長)。2011年4月1日順天堂大学浦安病院院長補佐併任、現在に至る。2007年以降、順天堂大学浦安病院勤務中に、サッカー全日本監督のオシム氏の治療や中国毒餃子事件、東日本大震災などの診療に従事する。学会活動等:日本救急医学会理事、評議員。日本外傷学会理事、評議員。日本熱傷学会理事、評議員。日本臨床救急医学会評議員。日本炎症・再生学会評議員。日本組織移植学会評議員。American Association for the Surgery of Trauma 会員。編集委員:日本救急医学会、日本熱傷学会、日本臨床救急学会外傷研修コース開発委員会委員長:日本外傷学会AED普及・啓発検討委員会委員:日本救急医療財団、国際救急医療チーム(JMTDR)登録医。著書:『熱傷治療マニュアル』、『外傷専門診療ガイドライン(JETEC)』、『集団災害医療マニュアルー阪神・淡路大震災に学ぶ』
タイトル :『救急医療は社会を映す』
*申込締切は、4月15日(金曜日)(締切厳守)です。
人数に制限がございますのでお早めにお申込み下さい。
尚、出席される方のみお返事を頂きますようお願い申し上げます。
*お申し込み方法:お申し込みは締切りました。
*お問合わせ先:東京支部 TEL 03-5224-6226 FAX 03-5224-6227
E-mail:kg.tokyo@nifty.com
【次回予告】 三日月会5月度例会は5月24日(火曜日)
講師:沢井 成美 氏(元三井物産勤務)
タイトル:『(仮)今中東を考える-歴史的視点から』を予定しています。
以上