【講演の概要】

 三日月会10月度はみすず書房の持谷社長をお招きし,「専門出版社の現在,変わる再生産の構造 ~『夜と霧』からピケティまで~」と題してお話いただきました。52名の皆さまにご参加いただきました。ありがとうございました。

 1946年創業のみすず書房は70年の歴史を誇る出版社ですが,4500点を超える刊行書は、哲学,思想を始め,社会学,心理学,歴史,文学,美術,と多岐に亘って日本の「叡智」を支えてきました。そのうちの多くはロングセラーとして長く売れ続けています。スタートは片山敏彦氏の「詩心の風光」。初版部数1万、20円という価格だそうです。

「ロマン・ロラン全集」全43巻,「現代史資料」全45巻など地道に手堅く出版していましたが,1956年発行の「夜と霧」のヒットは一大事件でした。この一冊がみすず書房の方向性を決めました。著者フランクルの原題は「強制収容所における一心理学者の体験」ですが,「夜と霧」という簡潔なタイトルをつけることによって内容が克明になり,売れ行きにも影響したと思われます。

「夜と霧」は2002年に池田香代子さん訳による新版が刊行されています。フランクル自身が書き換えた部分もありそれに沿って改訂されています。

 みすず書房の書物の特徴として,「白地の装丁,余白の多い装丁」ということがありますが,「余裕が無いなかでの効果を上げる」には白地,余白が功を奏します。それが「かたちへのこだわり」へと通じていくのです。

また,翻訳出版が多いのも特徴のひとつです。海外出版社との契約や翻訳にかかる時間などの問題で困難なことも多いのですが,海外の潮流に合わせて刊行を決めることもあります。

例えば去年の暮れ発行されたトマ・ピケティの『21世紀の資本』,今年になって専門書としては異例のベストセラーとなったことは記憶に新しいところです。2014年3月に版権を得て,アメリカでのブレイクを経たのち英語版からの翻訳を始めます。時期を逃さないようにと6ヶ月で翻訳を終え,その年の12月には初版が刊行されました。初版16000部は5500円という値段にかかわらず飛ぶように売れました。

 その理由として,持谷さんは「格差という問題が世界中で認識されていたこと」を挙げています。メディアの取り上げ方も大きく作用します。新聞,テレビ,インターネットのうち、特にテレビの影響が大きいということです。ピケティ本人の来日も話題になり、関連本も多く発行されました。

 最後に,これからの出版業の向かう先と図書館についても触れられました。電子環境が発達するなかで,質のよい本をいかにして長く残していくかということが課題なのですが,『21世紀の資本』の成功により,良い本は高価でも売れるということが証明されました。今後はそういった良書を若い人達に推奨していくことが必要です。

 また本と出合える「場」も必要です。いま図書館の在り方が問われていますが,デジタル化に伴うビッグデータの解析により,実用書やベストセラー中心の選書になっているのは公共の図書館としては問題です。売れることが重要な書店と違い,図書館は「知識」「情報」だけでなく,「智慧」を伝える場として存続して欲しいものです。

「本」は人間的なメディアです。人が伝え,場が用意されるとき,「本」は気づかれ,拡がっていく,と持谷さんはおっしゃいます。

若い人が読みたいと思うような魅力ある本作りをこれからも期待しています. 

【以下ご案内文です】

三日月会2015年10月度例会のご案内 

三日月会10月例会は「読書の秋」にちなみ、「みすず書房」の持谷社長をお招きし、厳しい出版不況の中で「良書」を刊行し続けることの志と出版現場の有り様についてお話しいただきます。

昨年刊行された『ピケティ著:21世紀の資本』という本格的専門書がベストセラーとなり大きな話題となりました。出版したのが終戦直後の1945年12月に創業された「みすず書房」です。70年の歴史から、生み出されてきた書籍は4500点を超えます。『フランクル著:夜と霧』に代表されるロングセラー群に、年ごとに刊行される新刊書を新たなロングセラーとして加えながら、地道で安定的な出版活動を続けておられます。

こうした専門書出版経営の実際の姿と、変わりゆくメディア状況のなかでの出版の有り様をお話しいただきます。『21世紀の資本』出版の経緯についても時系列でお話しいただきますので、多数の皆様のご出席を賜りますようご案内申し上げます。

日  時 :2015年10月21日(水)12:15~13:30

場  所 :関西学院大学東京丸の内キャンパス ランバスホール

千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー10階

  3階サピアタワーオフィスロビー受付前に「三日月会受付」(11:30~12:10)を設置。

会  費:1,500円(軽食は11:45から講演前にお出しいたします。)

スピーカー:持谷 寿夫(もちたにひさお)氏 (株式会社みすず書房代表取締役社長)

1951年東京都板橋区生まれ。(父は福井県、母は長野県出身)、早稲田大学教育学部卒。都内の書店勤務を経て1975年株式会社みすず書房入社、営業部に配属。その後営業部長、出版部(製作)部長を経て2008年専務取締役、2009年より代表取締役社長。

現在、日本書籍出版協会副理事長、図書館委員会委員長。

タイトル : 『専門出版社の現在、変わる知の再生産のなかで~『夜と霧』からピケティまで~』

*申込締切は、10月15日(木)(締切厳守)です。

人数に制限がございますのでお早めにお申込み下さい。

なお、出席される方のみお返事を頂きますようお願いします。

*お申し込み方法:お申し込みは終了しました。

*お問合わせ先:東京支部  TEL 03-5224-6226  FAX 03-5224-6227   E-mail: kg.tokyo@nifty.com

【次回予告】 11月度三日月会は11月18日(水)

講師:宮崎安弘氏 新日本カレンダー株式会社代表取締役社長

タイトル「自然と共に笑顔で暮らす - 暦生活の提案」を予定

以上