11月の三日月会は、「生活の質向上に繋がる聞こえのセミナー」というタイトルで、私たちの健康寿命分野において関心の高い聞こえと補聴器について、金鳳堂伊勢丹浦和店店長の大淵円氏にご講演をお願いしました。日常生活における難聴の兆候など具体的な例を挙げ、難聴を改善することの大切さや認知症リスクの低減についてわかりやすくご説明をいただきました。29名の皆様のご参加、ありがとうございました。
【ご講演の内容】
(1)難聴の現状
世界の人口79億5400万人のうち難聴者数は約6%の4億6600万人で、補聴器保有数は、難聴者の30~40%です。2050年には高齢化が進み、難聴者数は9億人になると言われています。
日本では人口1億2600万人のうち難聴者数は1430万人、11.3%でかなり多いです。補聴器普及率は13.5%で、アメリカ約30%、ドイツ約34%、イギリス約44%と比較すると低くなっています。補聴器の普及率が低いのは、自覚症状をあまり感じていない人が多いということや補聴器に対する偏見、値段が高いという理由からでしょう。
(2)日常生活でこんなことはありませんか
・聞き返しが多くなった。
・声は聞こえているが、会話の内容が入ってこない。
・後ろからの自転車や車に気が付かず、びっくりすることがある。
・チャイムや体温計のような電子機器の音などの生活音が聞こえない。
・数人の会話やうるさい場所での会話が苦手。
・以前に比べてテレビの音量が大きくなっている。
・相手の言ったことを推測で判断することがある。
これらは軽度難聴の症状です。難聴というと、かなり聞こえない状態と思っている人が多いのですが、7つの症状の一つでも思い当たれば、難聴の兆候があると気づいて下さい。
⑶聞こえの仕組み
難聴は、40歳から起こり始め、65歳~74歳で難聴を自覚している人は18%、75歳以上は43.7%です。聴力の低下は徐々に起こるため、自分では気づきにくいというのも加齢性難聴の特徴です。音が聞こえると内耳にある有毛細胞が反応し神経とつながり、電気信号に変わり脳に届けられて、その音を脳が分析してなんの音かが分かるのです。音を聞き続けているうちに有毛細胞が少なくなるのが、聞こえが悪くなる原因です。
それ以外に非常に大きな音を聞いたりしても、有毛細胞が損傷し、難聴になることがあります。
⑷難聴と認知症との関係
難聴になると全体的に聞こえづらくなるのではなく、いくつかの音ははっきり聞こえているのが難聴を自覚しにくい原因です。厚生労働省が2015年に発表した新オレンジプランでは、難聴が認知症の危険因子に挙げられています。2017年の国際アルツハイマー病会議でも、高血圧、肥満、糖尿病、難聴の4つが認知症の危険因子であると発表されました。補聴器を付けた人と付けなかった人の研究では、補聴器を付けた人の低下の度合いは標準的でしたが、難聴のまま何もしないで放置した場合、著しい認知能力の低下が起きたという報告があります。補聴器は、認知能力低下のスピードを抑え、アンチエイジング効果があるということが分かります。
⑸補聴器のテクノロジー
デジタル信号処理では周波数が現在は64分割できるようになり、きめ細かな調整が可能となりました。人の声なのか物音なのか違いがわかるようになり、言葉を際立たせて聞き取りやすくなっています。騒がしい場所で騒音の部分だけ抑えて、会話部分を聞けるようにしたり、衝撃音をブロックしたりする機能が発達してきました。大勢の人がいるところで自分が目を合わせている人だけの音声が入る機能もあります。AI(人口知能)搭載機種では、事前にAIに様々な音を覚えさせておき、例えば犬の鳴き声はうるさいという認識ではなく、犬がいるという聞きやすい音質に変えて届けてくれます。補聴器は両耳に付けるのがメインとなっていて、音の方向感覚が分かり、どちらから呼びかけられているかが分かる機能もあります。
補聴器の発達は著しく、以前よりかなり良くなってきています。
⑹補聴器と集音器の違い
・補聴器は、聴覚のニーズに合わせて一人一人の耳の波形に合わせるものです。薬機法で厳しく細かく規制されて作られていますので、安全です。
・集音器は通販で買える家電としての扱いです。聞こえない音を大きくして万人が使えるもので、個別に合わせたものではありません。安価な物なので、少し聞こえづらい時に短期間使用することには適しています。
(7)「良い聞こえ」を取り戻すことは、QOL(Quality of life=生活の質)を高めます。
・コミュニケーション力がアップ
音や声がよく聞こえるようになると、家族や友人との会話が楽しくなり、同じタイミングで笑うことが出来、感動を分かち合えるようになります。話が容易に入ってくるので、楽に会話ができるようになります。コミュニケーションをとるときは、私たちは言葉だけではなく、声のトーンの違いや身振り手振り、顔の表情などを総合して様々な事を理解しているので、聞こえが良くなると、コミュニケーションが向上します。補聴器はコミュニケーションツールです。
・生活上の危険回避
背後のから来る自転車や車の音等を聞くことで、音で周囲の状況を把握し、危険を未然に防ぐことを助けてくれます。
・音や声で脳に良い刺激を与えられます。
聴覚刺激を増やすことで、「楽しい」「嬉しい」などの情動を引き起こし、脳機能を活性化できると言われています。聞こえることが心の健康に大切です。聞こえることによって社会への参加が自発的に出来るようになってきます。聞こえを放置しておくと、家でふさぎ込んでしまうということになりかねません。聞こえを良くすることで引きこもりを防止することが出来るのです。
カントの言葉に「見えないことは、物と人を遠ざける。聞こえないことは、人と人を遠ざける」とあります。聞こえないことで人に会うことが面倒になり自分の殻にこもってしまわないように、人生100年時代に若々しく、生き生きと新しいことにチャレンジするためにも、補聴器が必要なツールであることを確信しています。
【最後に】
私たちは、目が悪くなると日常生活において不便を感じるので、自らメガネを作りますが、聞こえについては聞こえる部分があるために、自分では気が付かないことが多く、周囲の人々が不便を感じて指摘されて気付くことが多いそうです。今回のご講演で、難聴は認知症のリスクを高めることも分かりました。これから元気で若々しく過ごすためにも、自分の聞こえについて注意をしつつ暮らしたいと思います。補聴器について分かり易くご講演いただき、ありがとうございました。
【以下開催時のご案内抜粋】
三日月会11月度例会は、これからの私達にとってますます重要な生活の質を維持、向上させる健康寿命分野で関心の高い「聴こえと補聴器」について数々の事例を経験されてきた金鳳堂伊勢丹浦和店店長の大淵円氏を講師にお招きして講演をしていただきます。 日本の世代別人口は2025年には約800万人いる全ての団塊世代(1947年~1949年生まれ)が75歳以上となり国民の5人に1人が後期高齢者という超高齢化社会を迎えます。こうした人口動態に伴い、聴覚ケアの重要性もより一層増しています。当日は、音の認識や聞き取りに関する具体的な事例を交えながら、「難聴の現状」「加齢による聴力の低下」「聴こえのメカニズム」「難聴と認知症の関係」「補聴器の進化」「良い聴こえによる生活の質の向上」など、多岐にわたる内容を分かりやすく解説していただきます。聴こえを取り戻すことで広がる、彩り豊かな楽しい世界についてもご紹介します。人生100年時代において、身体の様々な部分の健康寿命を延ばすことは非常に重要です。特に「聴覚ケアはヘルスケア」というメッセージには、大きな意味が込められています。
講演後には質疑応答の時間も設けておりますので、ぜひ多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。
記
日時 : 2024年11月2日(土曜日) 14時30分~15時45分 【14時開場】
場所 : 関西学院同窓会本部 銀座オフィス 東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階
アクセス : 都営浅草線「東銀座」A-8出口徒歩1分銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A-12徒歩3分
会費 : 1000円 (小ペットボトルの飲み物をご用意致します。)
講師 : 大淵 円(おおぶち まどか)氏
1971年 神奈川県 小田原市生まれ
1995年 眼鏡店勤務 一級眼鏡作成技能士 認定補聴器技能者 現・金鳳堂伊勢丹浦和店 店長
金鳳堂は、明治20年に眼鏡店として創業し、現在では眼鏡、補聴器、サングラスなどを中心に、関東圏の主要百貨店にメガネサロンとして出店しています。その長い歴史の中で、お客様一人ひとりのご要望に丁寧に向き合い、眼鏡店としての信頼を築き上げてきました。現在、創業137年を迎える老舗企業です。 近年、関心と需要が高まっている補聴器分野においては、福祉先進国とされる北欧の技術やモデルを取り入れ、眼鏡と同様に高い実績を上げています。