10月の三日月会は、NHKラジオ第一で、ニュースを伝える夜10時からの「NHKジャーナル」の解説ニュースデスクを務められています1992年本学経済学部卒の山崎淑行様をお迎えして、「どうすべきか日本のエネルギー(総論、新エネの可能性とリスク)」というテーマでご講演をいただきました。

 豊富な取材経験から、日本の原発について詳しくお話ししていただきました。

 今、福島原発の処理水放出問題に、大きな関心が寄せられていますので、皆様熱心に耳を傾けられました。37名の皆様のご参加、ありがとうございました。 

【ご講演の概要】

 原子力を話すにあたって、山崎さんの立ち位置についてお話されました。原発は、使うならきちんと使う。使わないなら使わない。中途半端な政策が税金を垂れ流すだけになってしまうことを指摘しています。日本はこの中途半端な状況。フランスは国として原発がエネルギーの大電源なので、徹底的に資金をかけています。フランスの電源の90%は原子力発電で賄われています。一方原発を使わないのであれば、例えばドイツのようにやる。しかしドイツはフランスから電気を買っていますので、原発から脱却しているわけではないので、このあたりは微妙でもあります。 

・なぜ日本が原発を使っているのか? 

 広島長崎の原爆投下の記憶がまだ生々しい戦後30年代の政治家の中曾根氏らが中心になってつくった長期計画にさかのぼります。石油に依存しないエネルギー確保ということで原発が出てきました。原発の利用は、リサイクルするということが大前提でした。原発で一回ウランの核燃料を燃やした後、プルトニウムと一部のウランはもう一回燃やせるので、六ヶ所村にある再処理工場に持ち込んで一回使い終わった核燃料を溶かして、プルトニウム取り出し、そのプルトニウムをもう一回ウラン燃料に混ぜて何度も使うと言うのが、元々目指したものです。原発は、安価で発電効率が良いウランで発電ができることがメリットですが、リサイクルができることで最大のメリットを得ることを目指しています。このリサイクルには、軽水炉で使う方法と高速炉で使う方法の二つのリサイクルの輪があります。本命の輪は高速炉です。通常ある原発は軽水炉ですが、いずれ高速炉という次世代の原発を将来多く作って今の原発に差し替える形を想定しています。ただ、こちらはまだ実現できていません。そのため、軽水炉でのリサイクル、専門用語でプルサーマル発電というもので一部リサイクルをしています。ただ全体としては当初の計画から数十年遅れています。高速炉は、普通の原発では水を使うが、より高効率を求めて、液体ナトリウムを使います。ナトリウムは、水に触れると発火するので扱いが非常に難しい。アメリカとフランスは、かなり開発を成功させたが、日本は途中で頓挫してしまっている。

 福島原発の事故から、原発は縮小傾向にあったが、昨年12月、岸田政権は、原発回帰の方針を発表している。 

 私たちは、福島の原発事故を忘れてなりません。チェルノブイリ原発事故に次ぐ事故ですが、チェルノブイリ原発事故と同等ではないことを押さえておかなければなりません。放出された放射性物質のレベルは、福島の方が低く、数値は一桁違います。チェルノブイリは一基だけでしたが、完全に原子炉の中が爆発し、高濃度な放射性物質の燃料が外に散らばりました。福島は、格納容器と原子炉のそのものの形状は維持されたので、放射性物質が外に出た量はチェルノブイリより少ないのです。

とはいっても大事故には変わりありません。いまだに帰還できない住民も多くいます。

この事故を忘れてはなりません。

・処理水放出問題について

 福島の原発はメルトダウンして燃料は下に溜まっていて、24時間水を入れて冷ましています。解けた核燃料に水があたるため、水は汚染されます。その水を一旦回収してパイプで、ALPSという処理装置に流し込み、放射性物質をフィルターで濾しとってタンクに溜め込んでいます。しかしALPSでは放射性物質のトリチウムは取り除くことが出来ず、トリチウムを含んだ水を貯蔵してきました。トリチウムH₃は、日本語で三重水素です。身近に存在している放射性物質です。水に組成が近いので、分離することは、とても困難。事故を起こしていなくても、原発は、原子炉を水で冷却しているのでトリチウムが常に発生しており海に放出しています。世界どの原発もそうです。また再処理工場は原発とは桁違いでトリチウム水は出ます。フランスの再処理工場は、福島の400倍のトリチウムを出しています。ですからトリチウム水の放出に、過剰反応する必要はないと考えられています。これまでも世界の原発でトリチウムは放出されてきましたが、環境や人体に有意な被害があったとの報告はされていません。事故前の福島の原発でもトリチウムが放出されていましたが、人的な影響は報告されていません。トリチウムというのは、基本的には水に組成が近いので魚の体内に蓄積はせず体外にでてしまうとの研究があります。人間が魚を食べても蓄積しないということも、研究で示されています。過剰に心配することはなさそうです。 

電力業界の横並び体質

 電力会社は、全国同じ質の電気を届けるために、電事連という組織で固まっていて、私たちはどこに行っても周波数の乱れない停電も少ない電気を利用出来ています。ただ、デメリットもあります。なぜ日本の原発の対策が遅れるかというと、理由の1つはこの電力会社の横並びの体質からきているのではないかと思います。ある一社がある対策をやろうとすると、他の電力会社で利用者から、なぜ同じ対策をなぜやらないかと言われるので、全電力会社の対策が揃ったときまで対策を待ちます。横並びで最後尾に揃えるという体質が対策を遅らせている一因です。 

新エネルギーの現在地

 洋上風力がようやく増えてきました。また日本の地熱発電の潜在エネルギーは大きいので普及して欲しいです。小水力発電は、小川や水路を使って発電するもので、小さな事務所などの電力を賄うことが出来ます。将来的お勧めしているのが小型風力発電です。高性能な家庭用蓄電池が出来れば、家庭用の電気は、太陽光と小型風力といった小さな発電で充電し、賄える時代が来ると思っています。 

 山崎さんから、最近出版された「エネルギー危機と原発回帰」(水野倫之さんとの共著)というご著書をご紹介いただきました。とても分かり易く日本の原発の問題を解説されていますので、推薦いたします。原発の問題は、SDGsにも関わってくるものです。原発について真剣に考えていきたいと思いました。ご講演、ありがとうございました。

【以下開催時のご案内抜粋】

 三日月会10月度例会は、NHKラジオ第一で “今日1日・時代の動きが見える” ニュースを伝える夜10時からの「NHKジャーナル」の解説ニュースデスクを務める1992年本学経済学部卒の山崎淑行氏をお迎えし、下記内容にてご講演を賜ります。

 本出演番組では、解説担当の山崎淑行氏が世界や日本の今日の出来事を詳しく丁寧に解説を加えてわかりやすく伝えていらっしゃいます。三日月会当日も、ご著書「エネルギー危機と原発回帰」のこの夏の刊行に合わせて、処理水の海洋放出やエネルギー高騰、原発政策の再生可能エネルギーの課題と今後についてデスクの目線で忌憚なく語っていただきます。是非とも多数の皆様のご参加を賜わりますよう、ご案内申し上げます。

日  時: 2023年10月7日(土曜日) 14時30分~15時45分 【14時開場】

場  所: 関西学院同窓会本部 銀座オフィス

  東京都中央区銀座三丁目10-9 KEC銀座ビル7階

アクセス: 都営浅草線「東銀座」A8徒歩1分、銀座線・丸の内線・日比谷線「銀座」駅A12徒歩3分

会  費: 1,000円 (小ペットボトルの飲み物を用意いたします。)

講  師: 山崎 淑行(ヤマサキ ヨシユキ)氏(NHKジャーナル・キャスター)

  1969年山口県萩市生まれ。

  3歳から大阪府枚方市在。寝屋川高校卒、関西学院大学卒。フリーターやアメリカ留学などを経て27歳でNHK入局。初任地は福井  局。その後、報道局・科学文化部に所属。 

  原発、エネルギー、宇宙、環境、囲碁将棋、街づくりなど幅広く取材。

  2011年の福島第一原発事故では発生直後からテレビ解説を担当。情報が不足する中、避難や退避を呼び掛ける。同年、事故を検証する特番「メルトダウン」シリーズを立ち上げる。

  その後、静岡局と名古屋局、科学文化部でニュースデスクを歴任。

  はやぶさ計画は初号機のトラブルから2号機の帰還まで取材に関わる。

  2021年よりラジオ第一のニュース番組「NHKジャーナル」解説キャスター。原発事故や温暖化関連のNHKスペシャルやクローズアップ現代の番組多数。

  文化庁芸術祭大賞、放送文化基金賞、ドイツ賞、科学ジャーナリスト賞など受賞(いずれも取材班受賞)。

  著書:「地域の力で自然エネルギー!」(岩波書店 共著2010年)

     「緊急解説 福島第一原発事故と放射線」(NHK出版 共著2011年)

     「メルトダウン 連鎖の真相2013年」(講談社 取材班)

     「ドキュメント はやぶさ2の大冒険」(講談社 取材班2020年)

     「福島第一原発事故の真実」(講談社 取材班2021年)

演 題 :どうすべきか日本のエネルギー(総論、新エネの可能性とリスクを含め)